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僕は自転車に乗れない 第9輪

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作:クロガネ・リン
イラスト:SAA

「あー! ムカつく! 天井までもうちょっとだったのに!」

 薄暗い夜道に、レナの叫び声が響き渡った。

「なんであそこで当たるのよ! なんか裏で変なことしてんじゃないでしょうね、あの店!?」

 ハーデスの宵越し天井を目前にしてHZに阻まれ、しかもケルベロスで乗せた50GのGGが何もなく終わってしまったことで、レナは大層ご立腹だった。ホールを後にしてからずーっと、僕の少し後ろを自転車でゆっくりとついて来ながら、悪態をつき続けている。

「青HZだから大丈夫だと思ったんだけどな」

「しかも、なによあの犬! 全然ゲーム数乗せないし、キモいのよ!」

「…で、単発だった、と。まあ、典型的な負けパターンってヤツさ」

「そのうえアンタは、ちょっとのコインでも流せってうるさいし」

「当たり前だろう。そのちょっとが積み重なるとデカいんだよ」

「打ち続けたら当たってたかもしれないじゃない! アタシはそろそろGODが揃うような気がしてたのに」

「気のせいだ」

「隣のオジサンなんか、座って数ゲームでGOD揃えてたのよ? アタシの方を自慢げにチラっと見てきてさぁ。マジキモかったんですけど!」

 どこでGODの存在と恩恵を知ったのかと思ったら、そういうことか。まあ何にせよ、周りの台にも目を向けられるようになったのはいいことだ。

「打ち続けていれば、オマエにもいつか引けるさ」(※1)

「それが今日、さっきだったかもしれないじゃない!」

「みんな、そう言ってズブズブと負けるんだよ」

「ケチ! 臆病者! 負け犬!」

 負け犬はオマエだろうが。こんな夜道で、歳の離れた男とパチスロ談義なんかしやがって。

「でもまあ、あの後ゴッドーターの天井でちょっと取り返したじゃないか」

「それでも結局、今日は14000円負けよ。ダメッダメよ。最悪よ」

「あんまり収支に囚われ過ぎるなよ。勝ち続けるために重要なのは、結果よりも過程だからな」

「はいはい、ありきたりな説教ありが とうござまーす。誰が何と言おうとアタシは結果が大事、それが全てよ」

「はいはい、そうですか」

 過程よりも結果、か。まあそうだよな。僕だって結果がついてこなければ、こんな生活を続けているワケがないんだから。生活するための過程なら、他に手段はいくらでもある。結局、僕も結果に囚われているってことか…

「とにかく、明日は結果よ! 絶対に負けられないんだから!」

 そう息巻くレナを宥め、明日は12時ごろあの店に集合する約束をして(というかさせられて)、僕らは別れた。

 翌日。12時ちょうどに店に着くと、すでにレナは店内で1台のデータカウンタを穴が開くほど睨みつけていた。

「なんだオマエ頭でもぶつけたか?」

「違うわよ。この台なんかそろそろ打ち頃なんじゃないかと思って」

 そう言って、レナは490Gハマリのビンゴを指さした。どうやら少しは勉強をしているらしい。だが…

「惜しいな。この台は昨日AT後に、0Gヤメしてあった台だ。むしろ打ち頃なのは…」

 隣のビンゴを指さす。

「前日ノーボーナスで前々日から累計780G回ってるコイツだ」

 レナは一瞬悔しそうな表情を浮かべたが、僕が指さした台を打ち始めた。

 ふと、視線を感じたような気がして振り返ると、そこにはいつもの少女がいつも通りソファーに座っていた。どうやら少女の視線の先は僕ではなく、すぐ後ろで打っていた老人に向けられているようだ。今日は、凱旋を角から1万円ずつ打ち散らかしているのか…よりにもよって、な台だな。この時間で角から4台目を打ってるということは、それなりに当たってはいたと思うが、それでも3万円以上使っているはず。しかも、今打っているその台は…

「当たったー!」

 レナの大声が僕の思考を遮った。嬉しそうに僕の方を振り返ながら、数字が揃ったセグを指さす。

「ほら、見て! 早くない? ヤバくない?」

「ああ、ヤバいヤバい。良かったな」

「反応薄っ! そんなんじゃあ髪が薄くなるのも早いわよ!」(※2)

「関係あるか! さっさと消化しろ」

「はいはい。さー、イイ子だからいっぱい出すのよ~!?」

 と、レナが台に向き直ったとほぼ同時に、老人が僕の後ろを通っていった。行く先は確認するまでもなく、ソファーに座る少女のところだろう。4台目の1万円を使い切って、5台目に入れる1万円を貰いに行ったのだ。

(………はぁ)

 僕は老人が打っていた台の下皿がカラなのを一応確認した後、コインサンドに金を入れて打ち始めた。しばらくすると、老人は貰ったばかりの1万円札を握りしめて、僕の左隣に腰を下ろした。打ち始めから100Gほどで、僕の台の液晶に333が揃う。普通の打ち手であれば、多少なりとも悔しそうな表情を浮かべるものだろう。しかし、老人はコチラを見ようともせず、まるで興味ないとでも言うかのように、無表情のまま今の自分の台を打ち続けていた。僕も老人に対して、申し訳なさそうな顔などしない。なぜならこれが、もう長いこと続いている“老人と僕の関係”なのだから。

 老人の隣で黙々とGGを消化していると、レナが後ろから声を掛けてきた。

「ねぇ、ちょっと。終わったみたいなんだけど、どうすれば…」

「ああ、復活する可能性があるから一応1G回してヤメればいい」

 レナは僕の言葉が聞こえていない素振りで、老人と僕の台を交互に見た。すぐに状況を察したのか、レナの表情がみるみるうちに変わっていく。

僕は自転車に乗れない 第9輪

「…つーか、アンタ何やってんの?」

「凱旋の宵越し天井狙い。今日と前日、前々日で合わせて1400G手前までハマってたからな」

「そういうことじゃないわよ!」

「デカい声出すなよ。目立つだろ」

「その台、おじいちゃんがさっきまで打ってた台でしょ!?」

「そうだけど。何か問題あるか?」

「あるでしょ! だってそんなの…」

「じゃあ『もうすぐ当たるからヤメない方がいいですよ~』って教えてやれば良かったか? せっかく、ほぼ勝ち確定の台が捨てられてるのに?」

「かわいそうじゃない!」

「だったら、誰だったらかわいそうじゃないんだ。サラリーマンか? チャラい大学生か? それとも、目の前でヤメようとするヤツがいたら、誰でも教えてやるのか?」

「それは…」

「時間が問題なのか? なら何分たったらOKなんだ? そいつが店から出たら打っていいのか?」

 気が付けば、僕は席から立ち上がってレナに詰め寄っていた。

「これがハイエナの立ち回りだ」

「…アンタ、いつもこんなことしてたの? おじいちゃんが1万円ずつ台を変えるのを知ってて?」

「ああ。昨日も、一昨日も。オマエと会う前からずーっと。この店ではコレが一番勝てるやり方だからな。今ジイさんが打ってる台も、このまま当たらなきゃ天井まで200Gぐらいになるぞ。そしたらオマエ打てよ」

「アンタ、昨日アタシに言ってたじゃない! 結果よりも過程が大事だって…それがコレなの?」

「そうだよ。確実に結果が出せる、超合理的な過程さ」

「最っ低…見損なったわ」

 そう言って、レナは汚いモノを見るような目で僕をジッと睨みつけた。

「言っとくけど、オマエの打ってる台もここ数日でジイさんが育てた台だからな。最低なのは俺だけか? あ?」

 僕のその一言を聞いて、レナは大きく目を見開いたと同時に右手を振り上げた。僕は反射的に身構えたものの、避けようとは思わなかった。ぶたれるのならそれでいい。これで面倒なお世話係も終わりだ。明日からまた、元の生活に戻れる。僕はゆっくりと目をつぶり、その瞬間を待った………………………………………………………………………………………………………………………………(※2)…………………………………………………………………………………………………………

……あれ? 女子のビンタとはいえ、ヤケに遅い。まさか、助走をつけてのドロップキックに切り替えたんじゃないだろうな。待て待て! それ死ぬ!死ぬヤツだからぁぁーーー! おそるおそる目を空けると、レナは右手を振り上げたまま硬直していた。驚いた顔をしているので、その目線の先を辿ってみると、そこにはソファーに座っているはずの少女が立っていた。

「あのぅ、おじいちゃんがビックリしちゃうので…できれば、ヤメて欲しいなぁ~、なんて(笑)」

 そう言いながら、少女は老人の方をチラッと見た。老人はビックリするどころか、無反応で目の前の凱旋を打ち続けている。

「でも、コイツがアナタのおじいちゃんの台を!」

「だから、相手が誰だとか…」

僕は自転車に乗れない 第9輪

「あー、はいはい。お兄さん達が何を言い争っているかは大体わかっちゃっいました。ここじゃあアレなので、続きは外に出て3人でしませんか? なんて(笑)」

「アタシは別に構わないけど…」

「あ、ああ」

「決まり! それじゃあレッツゴー!なんて(笑)」

 エへへ、と明るく笑う少女に連れられ、僕らは外へ向かって歩き出した。

 

 

【※1】リンドウっぽく聞こえるかもしれないが、断じてパクリではない。ただ、脳内再生はあの感じで。
【※2】この時、僕の台からアメージンググレイスが流れ始めた。なんたるドラマチック

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