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僕は自転車に乗れない 第4輪

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作:クロガネ・リン
イラスト:小鳥遊ソラ

 平和が訪れた。忌々しい女子高生・咲楽レナとの最後の遭遇から早一か月半。あれから6と7が付く日のたびに(※1)、いつ例のベルの音が鳴るかとビクビクしながら朝の行列に身を潜めていたのだが、結局彼女は一度も姿を現さなかった。

 終わった、完全に終わったのだ。おそらく前回、突然打ち明けられた彼女の悩みに対して僕が苦し紛れに繰り出したアドバイスが、予想以上の効果を生み出したのだろう。きっと今頃、彼女は教室で同級生たちとウザいだキモいだダルイなっしーなどと、中身のない会話を繰り返しているはず。

 それでいい。それがあるべき日本の女子高生の姿だ。咲楽レナ編、これにて終了。ヒロイン交代だ。そもそも、スロプロと女子高生のストーリーなんて現実離れにもほどがある。もはやファンタジーの域だ。今後はもっと現実的に、ホールの中でスロプロが店員や客と織りなすハートフルストーリーの方向で進めていくべ…

「ちょっと」

 うん? なんだか聞き覚えのある声がしたような、しないような。

「なに一人でブツブツ言ってんのよ。キモいんですけど」

 いやいや、気のせいだ。それか人違いだ。未だかつて抽選待ちの行列で女に話しかけられることなんて、ただの一度もなかったのだから。

「ねぇ、ちょっとナナシ。いつまで並んでたらいいのよ、これ」

 ナナシ、と呼ばれて思わず振り返ると、そこにはいつもの制服姿ではない、私服姿の咲楽レナが立っていた。

「えぇ!? ちょ、お前、学校は?」

「は? ヤメたわよ。アンタにああ言われて、その後すぐに」

「いやいやいや! 僕はただ、2択や3択で悩んだ時の秘訣を話しただけであって、そんな将来を左右するような進路のアドバイスなんてした覚えはないぞ」

「キモいおっさんに説教された自分なんか嫌い。大っ嫌い。そんな嫌いな自分が『とりあえず高校ぐらいは出ておいた方がいいかも』って思ってたから、従わずにヤメてやったのよ」

 バカかコイツは! 右リールか左リールか、親子丼かカツ丼かで悩んだ時に使うような方法を、そんな重要な選択で使うなんて!

「確かに、後悔はしないものね。とりあえず、今は」

 僕の方がとんでもなく後悔してるっつーの。そしてお前もいつか、とんでもなく後悔するっつーの。絶対!

「お、親は何も言わないのか? 大病院の娘が高校中退なんて、そんなの許されるワケないだろう」

「あの人たちは私に興味なんかない。自分達の病院の跡取りになってくれる優秀な医者を私がいつか捕まえさえすれば、それで文句ないのよ」

 嫌な話を聞いてしまった。金持ちは金持ちなりの事情があるっていうのは、本当なんだな。

「でも、学校ヤメてどうするんだよ」

「さあ? ま、色々やってみるつもりよ。目についたものを手当たり次第にってカンジ?」

「そうか…じゃあ、頑張って」

 そう言って僕は、再び彼女に背を向けた。しかし、レナは一向にその場から立ち去ろうとしない。

「おい…何やってんだよ」

「は? だから、とりあえず目についたパチンコ屋に入ってみようとしてるところなんですけど」

「パチンコ屋は18歳未満のお客様の立ち入りを固くお断りしています!」

「19歳だけど?」

「…え? いや、だってお前、女子高生だったんじゃ…」

「19歳。1996年4月7日生まれ。保険証、見せようか?」

 そう言うと、レナはヤケに分厚い財布(※2)の中から保険証を取り出して、僕に見せてきた。

「…確かに。いや、でも…何で?」

「ま、いわゆる高校浪人ってヤツね」

 そのあとレナが早口で説明してくれたこと要約すると、こうだ。

 県内有数の進学校に入学するつもりだったが、マークシート方式の入試テスト序盤にどうしても答えのわからない問題があった。飛ばして次の問題に取り掛かるか、適当に答えを選んでおけばよかったものを、彼女はその性格上、どうしても先に進めなくなってしまい、結局そのまま時間切れ。そういう事態が5教科中2教科で起きた。もちろん結果は不合格で、他にスベリ止めを受けていなかった彼女は、浪人して今の“名前さえ書ければ誰でも受かるバカばっかりのお嬢様学校“への入学を余儀なくされたという(※3)。

「ホント、バカばっかりで面白いことなんかただの一つも見当たらない場所だったわ」

「パチンコ屋だって、お前からすれば同じようなもんだと思うぞ。むしろ、もっとヒドいかもしれない」

「それを決めるのは私だから」

「大体お前、金持ってんのか? 言っとくけど、すんげぇ金かかるんだからな? 軽い気持ちでやったら、5,6万なんかあっという間になくなっちまうんだぞ?」

 事実だ。ガキが軽い気持ちで手を出したら、どこぞの毛まで毟られるのが今のパチスロなのだ。

「悪いけど」

 分厚い財布をチラつかせながら、レナは言った。

「お金ならあるから」

 ですよねー。一度でいいから、そんなセリフを言ってみたいもんだ。

「そうか…ま、じゃあ頑張って」

 僕はそう言って、彼女に背を向けて歩き出そうとした。

「ちょっと、どこ行くのよ?」

「お前はここで打つんだろう? だったら俺は別のホールに行くよ。他にもアテはあるし、今からならギリギリ開店に間に合うからな」

「そう。じゃあアタシもそこに行く」

「じゃあ、僕はここで打つ」

「じゃあ、アタシもここで打つ」

「何でだよ!」

「コッチのセリフよ! こんなに若くてカワイイ女子が、一緒に打って手取り足取り教えろっつってんのよ! 喜ぶのが普通でしょ!? それとも、あんたホモォ!?」

「断じて違う。僕はノーマルだ」

「だったら、アタシが納得できるだけの断る理由を言いなさいよ」

「僕はプロだ。遊び半分で打ちに来たガキの世話みたいな、稼ぎが減るリスクは負いたくない。それに…」

「それに?」

「お前と一緒にいたら、他のヤツらにあだ名をつけられるだろう。女連れのヤツ、金髪の彼氏、だとか」

「あだ名?」

「そうだ。僕はとにかく、他人にあだ名をつけられるのが嫌なんだよ。そのために、これまでどれだけ気を使ってきたか…」

「意味わかんないんだけど。何でそんなに、あだ名をつけられるのが嫌なのよ?」

「長く勝ち続けるたけには、目立たないことが一番なんだよ。存在に気付かれないぐらい。たとえ一方的だったとしても、名前がついてしまえば存在が認められたことになってしまうし、他人にも話しやすくなるだろ。だから、あだ名をつけられるような行動は避けたい」

「え? ちょ、ちょっと待って。じゃあ、その特徴のないダッサい服装とか髪型って、目立たないためにワザとそうしてるってこと?」

「そうだよ」

「アンタ、バッカじゃないの! 自意識過剰。誰もアンタなんか見てないっつーの!」

「見てるんだよ。スロプロっていうのは、上手いヤツほどホールの中で誰が何をしてたか、正確に把握してるもんなんだ」

 補足だが、スロプロという人種は必ずと言っていいほど、ホール内で良く見かける人間にあだ名をつけている。メガネ、デブ、茶髪出っ歯、ショルダーバッグ、ガリ天パ、猫背強打、ジャグババアetc…。容姿や行動、服装や所持品など、特徴的な点があれば高確率でそれがあだ名になる仕組みだ。

「ふぅん。だとしても、そこまで目立つことを嫌がるのはおかしい…っていうか、異常よね」

 レナは少し間を置いたあと、僕の方に少し顔を近づけて、小声で言った。

「やっぱ、何かやってるでしょ? ゴト師? 打ち子? そうなの?」

 またネットで余計な知識を付けたらしい。反論する気すら起きない。

「とにかく、今すぐ決めろ。ここで打つか、余所で打つかだ。もちろん、どこで打とうが僕は関与しない」

「だから、そういうの決められないんだってば。それにもう決めたのよ。アンタに教えさせてあげるって」

「なんだその言い方!? それはもうツンデレじゃねぇ! ツンツン+ゴリゴリのツンゴリだ!」

「大体ねぇ」

 レナは周りの客を見まわしながら言った。

「カップルなんて他にもいるじゃない。むしろ、いっつも一人ぼっちでいるなんて、それこそあだ名の対象になると思うけど?」

「いやいや、ならないだろう」

「ぼっち」

 …ヤメろ。

「よう、ぼっち」

 ヤメてくれ!

「ナナシのぼっち」

「みつばちハッチみたいに言うな!」

「それとも、こういうあだ名で呼ばれるようにしてあげようか?」

僕は自転車に乗れない

 レナは意地悪そうに口の端を挙げて笑いながら、囁くように言った。

「この間、朝から金髪の女に大声で怒鳴られてた奴」

 目的の為ならテロ行為も辞さないというその脅しに、僕は屈するしかなかった。何も言わず、ホールの外に向かって歩き出す。

「ちょっと! マジで叫…」

「いいから黙ってついて来い。ここはダメだ。別のホールに行くぞ」

「あ! ちょっと待って! 自転車、取ってこないと」

 嬉しそうにそう言って、レナは駐輪場へと走っていった。

 

 

(※1)過去4回の遭遇がいずれも6か7が付く日だったため
(※2)札束が入っているワケではないだろう。女の財布とは、そういうモノらしい
(※3)進学校も受け直したらしいが、再び序盤でつまづいて落ちたらしい

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